5.パリの美容院
jeudi 12 juin 2003, Paris / mardi 17 juin 2003, Tokio up

髪が長くなった。そろそろ美容院に行かなきゃな〜と
思いながら何ヶ月が過ぎただろう。
あまり真剣に美容院探しをしていなかった。
パリには髪の長い人もけっこう多いので、
長さはあまり気にならなかったのだけど、
毛先が傷んでばしばしになってしまっていた。
これはちょっと気になる。
それに、5月の下旬から真夏のように暑い日が続き、
長い髪が急に暑苦しく、うっとおしくなってきた。
あああ〜髪が切りたい!!
と言えば、じゃ、美容院行けば?
というお声が聞こえてきそうだ。
・・・ごもっとも。答えは簡単、美容院に行けばいいだけの話しである。
でも実を言うと、美容院へ行くのがちょっと怖かったというのが、
今までためらっていた大きな原因である。
何が怖いかと言うと、ずばり「失敗されること」
以前パリの語学学校に通っていたときに、美容院でおもいきり
失敗されたと話していた日本人女性がいた。
そのほかにも、カットを失敗された人の話を何度か聞いたし、
わざわざ日本人美容師がいる美容院に行っている人もいた。
日本人のコシのある黒髪は、フランス人には扱いにくいというのと、
ぶきっちょさんが多いというのが失敗される主な理由のようだ。
私の頭の中では、「失敗」と言う文字が大きく頭の中を
占領してしまった。
カットを失敗されることがどれくらいショックなことか、
女性ならわかっていただけるのではないだろうか。
でも、もうそんなことは言っていられなくなった。
髪を切る夢を何度も見た。
ああああ〜髪が切りたい!!!

そこで私は美容院のリサーチを始めることにした。
あるわ、あるわ。
前々から美容院はいたるところにあるのは気づいてたけど、
こうやって、改めて探すとその数の多いこと!!
美容院のすぐ向かいに美容院があったり、
ちょっと歩いたところに、また違う美容院があったり・・。
さすが美容の都、パリ(ん?ちょっと違うか?!)
近所だけでも数え切れないほどたくさん。
できるだけおしゃれそうな美容院、床屋とか散髪屋じゃなくて、
お客さんで、おしゃれなマダムやマドモアゼルがいるところは要チェック!!
う〜ん、どこにしよう。

その日は別の用事で、近くの本屋さんまで出かけた。
すると、途中に大きな美容院が!!
あれ、こんな所に美容院があったけ?!
けっこうよく通るところなのに、気づかなかった。
さっそく中をのぞいたり周りをうろうろして物色(←あやしい・・。)
なかなかいい感じ。広々してて、かっこいいモデルのポスターが張ってあって、
美容師さん達もおしゃれな格好をしていて若い。
その美容院の前にパンフレットがおいてあったので
もらって帰って考えることにした。
ほかの美容院も探してみようと思っていたのだが、
家に着いて、パンフレットを眺めているうちに、今すぐ髪の毛が切りたくなった。
もう我慢できない〜!!今すぐ切りたい!!
そう思うと、いてもたってもいられなくなった。
そのパンフレットに電話番号が書いてあったので
さっそく予約の電話、いや、今すぐに切ってもらえるかどうか
確認。
電話をすると、今すぐでもOKということで、
パンフレットを持って早速行った。
この展開の早いこと(笑)
早く事が進む時は進むんだな〜なんて変に感心したりして。

初めての美容院にわくわく、どきどき、ちょっと不安になりながら
ドアを開けて中に入った。
Bonjour !
(こんにちわ)
と東洋系の女性が挨拶してくれた。
さっき電話をしたことを伝えると、彼女は
受付の女性に聞きに行き、私はその女性に、
髪を切って、カラーリングしたいと言った。
すると、すぐ横にある階段を降りていくと、人がいるから、
と言われた。ああ〜地下もあったのか、知らなかった。
その階段を降りていくと、
Bonjour !
と、いかにも美容師さんといった感じのおしゃれな男の人が
立っていて、挨拶してくれた。
彼のことをFさんと呼ぶことにする。
椅子に座ると、どんな色にしたいのかと聞かれ、
私はよく考えていなかったので、色はわからないけど
全体を染めて明るくしたい、と言うようなことを言って、
助言を求めることにした。
すると、はっきりと、そんなことをしたらきれいじゃないよ、と言われた。
あらら・・じゃどうしましょ。
私の髪の毛先に、前回したカラーリングが残っていて、
それを見せながら、
「黒髪にこういう色をもってくると
もっときれいだよ、控えめで自然だし。
全体を染めるよりきれいだと思わない?」
などと言うようなことを早口ですごい勢いで言われ、
次から次へと色のサンプルを持ってきてくれ、
雑誌の写真も見せてくれた。
「ほらね、これのほうがきれいでしょう」
と言いながら、黒髪がベースでところどころ栗色が入った
モデルの写真を見せてくれた。
彼は、ヴァリアージュと言っていたが、
たぶん日本ではメッシュと言われていると思う。
光の加減で微妙に髪の色が明るく変わる感じで、縦に筋が入るようにする。
私はプロに任せることにした。(本音を言うと考える暇がなかった^^;)

手際よく私の髪を染めながら、ちょっと世間話。
染め終わるとしばらく置いておく。
その間、コーヒーやコーラはどうですか、と聞いてくれた。
日本と同じ(^^)
そしてFさんにさっきの東洋人の女性を紹介され、
彼女が私の髪を切ってくれるとのこと。
彼女はイタリア系中国人でフランスに来て美容師をしているとのことで、
まだあまりフランス語は話せないようだった。
でもこうやってがんばっている人がいるんだと思うと
自分もがんばろうと思うし、またパリにはいろいろな人が
いるんだと感じる瞬間でもあった。
Fさんはかなり面倒見がよく、
まだあまりフランス語がわからない中国人の彼女に
丁寧に指導していた。
しばらくして、彼女が私の髪を洗ってくれた。
髪を洗ってもらう時のポジションは日本と一緒で、
椅子に座って、頭を後ろに倒す。
でもこちらは椅子が動かないで、固定されている。
だから自分で頭を引いたり、倒したり調節しなければならない。
・・・とは言ってもそんな大変なことではないので、
そう違和感はなかった。
そして日本と違う点は、
顔にタオルをかぶせたりしないところ。
でも美容師さんは、お客の横に立って頭を洗うのではなく、
後ろに回って洗えるスペースがあるので、
タオルをかぶせなくても目と目が合うことはないので
どちらもリラックスできる。

こうやって美容院で髪の毛を洗ってもらうのって
すごくいい気持ち。
それに夕方だったせいもあってちょっと疲れ気味だったので、
思わず寝そうになった。
なにやらハッカのような香りが漂ってきて
頭がスーッっとした。
ハッカシャンプーだったのだろうか?!
そして彼女はじゃぶじゃぶとゆすぎ始めた。
あああ〜お湯が耳の中に入ってくる〜!!
日本に比べてこのへんはちょっと雑かも・・(^^;
髪を洗い終わると彼女が、
Vous voulez du conditionner ?
(コンディショネールはどうしますか?)
と聞いてきた。
は?コンディショネールとは?
何かよくわからなかったけど、良さそうなのでお願いすることに。
oui, s'il vous plait
(お願いします)
と答えた。
すると、なんの、髪のパックのことだったらしい。
10分おきますね、彼女は言って、別の仕事に取り掛かり始めた。
こうしている間に、次々とお客さんが来る。
みな常連客らしく、Fさんと親しげに世間話をしている。
お客さんは年配のマダムが圧倒的に多かった。その次にムッシュー。
Fさんはこの美容院の中心人物、つまり店長さんとか
そういった感じの人みたいだ。
和やかで、アットホームな雰囲気だった。
Fさんは自分のお客さんの髪を染めながらも、私への注意も怠らない。
もうすぐきれいに染め上がるよ、とか、全体のカラーリングは
白髪になってからするものだとかなんとか言っている(^^;
やっと、コンディショネールも終わった。
Fさんが髪のチェックに来た。
これで乾くときれいに色が出るよ、今回は控えめにしたけど
次の時にはもう少し明るい色にしよう、とか、その次はブロンドに
しようとか、冗談交じりで早口に言う。

次はいよいよ、髪を切る番。
さっきの中国人の女性が戻ってきて、私を案内してくれた。
私は彼女に続いて階段を上がっていった。

持ってきたパンフレットに、気に入った髪形が載っていて、
それを見せようと思っていたのだが、
私が髪を洗ってもらっている間机においてあったのを、
後から来たマダムに取られてしまった。
仕方ない、写真を見せてもらうことにした。
両サイドにシャギーが入っている髪形で、
日本ではほぼ定番になっているのをお願いすることにした。
フランスでもこの髪型はモードなのだけど、こちらは人それぞれなので
皆が皆、この髪型をしているわけではないようだ。

彼女は手際よく、カットしていく。
途中で、「立ってください」と言われて、
立ったままカット。しばらくして座る。
座ったままカットして、しばらくしてまた立ってカット。
立ったままカットするのは、身長とのバランスを見ているのだろうか?
日本と違って面白いところだった。
そしてもう一つ、面白いのはまず先にまっすぐに切りそろえてから、
徐々に不揃いにカットしていくところだ。
フランスではこういうカットの仕方をするのかな。
面白いな、と思った。
髪を乾かした後も、彼女は念入りにチェックしてはさみを入れていく。
そして、念入りにブローをしてきれいに整えてくれてた。
おおお〜!!コンディショネールのおかげか、髪はさらさらで、
カットも写真のようになった。
私はほっと一息、大満足だった。
Fさんが来て、明るいところだとヴァリアージュがよくわかるよ、
と言ってくれた。

さてお会計のほうはと言うと・・
しめて96ユーロ!!!
(日本円で約12480円)
ひぇ〜た、た、、高い〜 (◎o◎)
きっとヴァリアージュが高いんだろうな〜。
このヴァリアージュは、一度染めると3ヶ月から半年くらいもつそうなので、
毎月染めにくる必要はなさそうでほっとした。
毎月96ユーロだとちょっとイタイ・・。
でも、カットもヴァリアージュもすごく丁寧にしてくれたし、
出来上がりも満足だし、良かった、良かった。

家に帰って鏡で見てみると、明るい栗色のヴァリアージュが
きれいに筋になって髪全体に入っていた。

今回の美容院体験は、
フランス人の美的感覚(?!)を直接知るいい機会になった。
チャパツは日本で定番になりつつあり、私も日本に住んでいる時は
ずっと髪全体をカラーリングしていた。
とにかく明るく軽く見せたかったのと、
明るい色のほうがおしゃれに見えるから、というのが理由なのだけど、
元の黒髪を生かすというのに、なるほどな〜と納得してしまった。
黒髪でも十分、おしゃれになる方法があったのね(^^)

そして、私の「フランスの美容師はカットが下手」という、
偏見と先入観は大方消えた。
よく考えてみれば、日本でだってカットを失敗されることはよくある話で、
フランスだって、日本だって、カットが上手な美容師と下手な美容師がいる。
当たり前といえば、当たり前のことなのに思い込みのせいで気がつかなかった。
ちょっと大げさかもしれないけど、自分に合う美容師にめぐり合うまで
いろいろな美容院に行って、
チャレンジしてみるのも大切なことかもしれないと思う。
美しくなるためには努力も必要ってことで(^^)
運良く私は一回目で満足したが、
次は別の美容院もチャレンジしたいな〜なんてひそかに思っている。
もし失敗されたらここに戻ってこよう。


<メモ>

Jean-Claude Biguine

今回私が行った美容院です。
世界各国に支店を持つ、大型美容院。
東京にもたくさんありました。
そのほかに、ニューヨーク、ミラノ、ブリュクセル、マイアミ、モナコ、バルセロナ、メキシコ、モスクワ、カサブランカ、ソウルにあります。
ヘア・ケアだけでなく、メイクやマッサージなどもやってくれます。(もちろん有料^^;)化粧品もあります。
フランスでは、ヘアスタイルや、髪の色に合わせてメイクをするようで、雑誌でも、ヘアとメイクは一緒に載っていることが多いです。
この二つが調和して初めて美しくなれるのでしょうね(^.^)

その後・・・

美容院に行ってほぼ一週間がたちました。
ヴァリアージュは染めた日より、少し明るくなりました。
光の中に立つとよくわかるのですが、
髪の表面は栗色の筋が全体的に、中のほうの筋はライオンのたてがみのような
色になり、それらがベースの黒と調和してなかなか良い感じです。
Variage、ヴァリアージュは Varier (変化をつける、多彩にする)と言う言葉か
ら来ているものと思われます。
その言葉が示すとおり、髪はモノトーンから多彩に変化しました。

Satoko


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